10年ぶりにFate/Zeroを見直した

Fate/Zeroがリアルタイムで放送されていたのは2011~2012年である。そのときの自分はまだ学生で今よりもたくさんアニメを見ていた。そんなある日イベントでセイバーのバイクを目撃し、デザインのかっこよさに惹かれたことをきっかけにFate/Zeroを見ることにした。


当時はFateに関する知識はゼロの状態で見ていたので聖杯戦争とかよくわかっていなかった。だから序盤の協会で綺麗の周りをぐるぐる回りながら話しているシーンとかは退屈だった。2話以降から一気にはまっていったが。


10年経った今でも記憶に残っているシーンが多い。光のない目で蟲に埋もれる桜、一度子どもを逃がしておいて希望をもたせたところで襲い恐怖には鮮度があるというキャスター、酒を飲み王について語るセイバーとライダーとギルガメッシュ、ヒトデとタコとナマコを混ぜたような海魔の集合体を消しとばすエクスカリバー、綺麗を愉悦部に勧誘するギルガメッシュ、自害させられ血の涙を流し恨み言をいって消えるランサー、ケリィはどんな大人になりたいの?からのバイオハザード島、200人の船と300人の船の底に同時に穴があいたらどうする問題、全裸のギルガメッシュなど。


あれからDEEN版、Unlimited Brade Works、Heaven's FeelとFate/Stay Nightのアニメと映画は全て見たので、聖杯戦争のルールとかアンリマユによって汚染された聖杯が人間を殺すことでしか願いをかなえられないことは理解できた。そのいろいろわかった状態で改めて見てみると以前よりも楽しめた。


Fate/Zeroは第五次の10年前にあったとされる第四次聖杯戦争についての物語である。遠坂とアインツベルンは聖杯を手に入れるため、雁屋は桜を救うため、ケイネスは魔術師として箔をつけるため、ウェイバーは自分の論文をばかにしたケイネスを見返すため、とみんなそれぞれ異なる理由で参加しており人数合わせでマスターになったのは龍之介くらいである。


いろいろ知ったうえで見ると以前は退屈だった1話がおもしろかった。綺麗は聖杯に選ばれたが自分の願いがわからず父に言われて時臣に協力することにしたとか、切嗣と綺麗は経歴を見たときからお互いを意識し合ってたとか、ケイネスの聖遺物を論文をばかにされたウェイバーが盗んだとか、切嗣はアインツベルン家の用意した聖遺物でセイバーを呼び出したとか。既に戦いは始まってる感がいい。


ここからはキャラごとに振り返ってみる。


衛宮切嗣はイベントで外道コールされているのを見てから心のない暗殺者というイメージが強かった。確かに妻のような存在がいるのに愛人と寝るところや、自分は危害を加えないと約束した敵を部下に撃ち殺させるところを見ると外道ではある。切嗣がマイヤと身体の関係を持ったのはアイリを聖杯の器にするという裏切り行為への予行演習という設定があったらしいが、他に方法があるはずなのでこれに関しては擁護できない。ただ立場的には敵対しそうな2人が切嗣を守るために協力して戦っていたのは、切嗣が2人から慕われるだけのことをしたからではないか。


切嗣は敵には非情だが、それは聖杯を手に入れて戦いのない平和な世界を実現させようとしていたからである。多数を助けるために少数を犠牲にすることは仕方がないと考えており、最後までその考えを貫いた。その考え方は正義のヒーローとしてふさわしくないかもしれないが、誰かを助けたいという優しい心の持ち主には違いない。戦場に価値を見出す英雄だからとセイバーを完全無視するのはどうかと思うが、心の余裕がなかっただけなのかもしれない。


セイバーはクールな女騎士というイメージ。黒スーツに改造バイクやエクスカリバーがかっこいい。切嗣に不満を言って無視されながらも命令には従っていたのに、自らの願いをかなえるはずの聖杯を令呪で無理矢理破壊させられて退場と散々だった。


その中でも1番メンタル削られてる感じがしたのが王の宴。セイバーは理想のために自分を犠牲にして民を救う孤高の王、イスカンダルは自分の欲望のままに生き民を導いて臣下に慕われる王だった。セイバーはイスカンダルに痛ましいと言われ言い返せなくなっていたが、王のあり方としては間違っていない。確かに人生を楽しんでいた王はイスカンダルだが、セイバーのような王を望む民衆のほうが多い気がする。そんなセイバーが第五次で正義の味方になりたいという切嗣の思いを受け継いだ士郎に救われたのならよかったと思う。


言峰綺麗はアイリの首を絞めて殺したヤバイやつというイメージがあったが、改めて見直してもヤバイやつだった。神父である綺麗は聖職者が他人の不幸を悦とするなんて、みたいなことを言ってたのに無意識のうちに雁屋に興味を持ったことをギルガメッシュに指摘され愉悦を求めて行動するようになる。これが愉悦部の始まり。時臣からプレゼントされたアゾット剣で彼を刺し殺し、葵に雁屋が時臣を殺したかのように見せてその様子を見ながら酒を飲むのは悪趣味すぎる。切嗣との対決ではお前のような神父がいるかとツッコみたくなる戦闘能力を発揮。第五次で綺麗がラスボスになったのは、たぶんギルガメッシュのせい。


間桐雁屋は桜のためと言いながら葵さんをあきらめきれなかったから聖杯戦争に参加したようだった。時臣を憎んでいたのは桜を養子に出したというのもあるが、葵さんと結ばれたことに嫉妬する気持ちが大きかったからだろう。時臣が強かったから返り討ちにあっていたが、もしあのとき時臣を殺していたら葵さんが雁屋をどう思うか予想できなかったのか。そこにつけこまれて愉悦部の犠牲になってしまう。白髪で血を吐きながら戦っているし、桜を助けるために体を張ったのは確かだからなんか憎めない。凜を助けたところはよかった。間桐臓現に聖杯よりも苦しむ様子を見たいといわれるのは不憫。


仲よさげに大量殺人をしたキャスター陣営は幸せな感じに退場したのに、ランサー陣営は内輪もめし裏切られて全滅と悲惨さが際立つ。ケイネスの水銀の魔術はすごいのに切嗣の起源弾でボロボロにされるわ、許嫁のソラウがランサーに惚れて令呪を奪われるわ不幸体質。プライドが高く人を見下し監督役の綺麗の父を殺すなどいいやつではないのに同情してしまう。ランサーは主であるケイネスよりも金髪の美少女の味方っぽいし。ライダー陣営は強そうに見えたイスカンダルギルガメッシュにあっさり負けたのはショックだったが、ウェイバーが彼の話を伝えるために生き残るというのはよかった。


改めて見てあれ?と思ったところもある。これ以上犠牲者を出さないようにという理由で、普通に暮らしていた子どもの切嗣が父親を撃ち殺すのに迷いがなさすぎるとか。ナタリアの乗る飛行機を打ち落とした切嗣がバカヤローと叫んでいるシーンは作画と声優の演技にインパクトがあったが、切嗣があまり苦悩している描写がなく情緒不安定なだけに見えた。桜が蟲蔵に沈んでいく雁屋にバカな人、おじいさまに逆らうからと言うのは抗うのを諦めたからというより冷たい性格に見える。など


多少違和感のあるシーンもあるが、それを覆い隠せるほどおもしろく印象に残るシーンが多かった。他のFateシリーズと比べてFate/Zeroはマスターの平均年齢が高く戦争感があるところがいい。また記憶がうすれた10年後くらいに見直してみてもいいと思った。