世界体操2021をみて審査方法の進化を知った

世界体操2021をテレビで見た。会場は北九州で決勝に出ていた日本人選手もたくさんいたのでかなり盛り上がっていたような気がする。体操女子の村上選手は現役最後の試合でゆかで1位になり金メダルを取れたのでよかったと思う。ただその結果がインクワイアリー(問い合わせ)によるものだったのでちょっとモヤっとした。


個人的に村上選手のゆかの振り付けはキレがあって好みだし、難しい技に挑戦しているし、ダイナミックな大技が好きなので応援していた。だか1位から2位になった選手の気持ちを考えると素直に喜んでいいのか複雑である。外野がとやかくいうものではないことはわかっているが、どのように審査が行われているのか気になったので調べてみた。


現在体操はDスコア(技の難度)とEスコア(技の完成度)によって得点が決まる。Eスコアは10点満点の減点方式でDスコアは上限なし。いくら難しい技をやったとしても技の完成度が低ければ全体の点数は低くなるというわけだ。


点数をつける審判員は9つの国から選ばれている。2人の審判員で1つのDスコアを出す。5人の審判員がそれぞれ出した5つのスコアの中から最高と最低を除いた中間の3つの平均によって1つのEスコアを出す。残り2人の審判員は参考審判員であり、彼らが出したスコアによって基準から大きく外れていないかをみて調整し最終的なEスコアが決定されている。


Eスコア(技の完成度)にはどうしても審判員の主観がはいってしまうところがあるし、審判員自身に贔屓する気がなくても自国の選手ならなんとなく応援したいという気持ちで高い点数をつけてしまうこともあるかもしれない。だがこの方法ならそういう偏りを防げそうである。むしろDスコア(技の難度)のほうが2名の人間の目だけで正確に審査できるのか不安な気がする。


近年は選手がどんどん高度な技をするようになっており、3回転とか3回ひねりとかは一般人の目には捉えきれない。審査員は訓練を受けてはいるが人間なので、他のものに気をとられたとか目にゴミが入ったとかで見逃してしまうこともあるのではないか。それをカバーできるのがビデオ判定である。ビデオ判定なら見逃してしまっても見直せるし、スロー再生すれば肉眼では捉えきれなかったところまで見られる。最近はAIを使って採点するシステムまでできているらしい。世界体操ではインクワイアリーにAIが導入されている。


インクワイアリーとは技の難度を示すDスコア(技の難度)に不満があった際に、審判長に問い合わせられる制度である。美しさなどを表すEスコア(出来栄え点)はインクワイアリーの対象外だ。再確認には富士通が開発したAI搭載の採点支援システムの映像が使われている。


それならばんばんインクワイアリーを利用したらいいじゃないかと思うが、そういうわけにはいかないらしい。インクワイアリーを利用し、認められないと「お金」が発生するからだ。1回目が300ドル(約3万4000円)、2回目が500ドル(約5万7000円)、3回目以上が1000ドル(約11万4000円)。個人で気軽に払えるような金額ではない。


元々インクワイアリー利用料は現金払いだったが、現金を握りしめて審査員と対話する写真がネット上で出まわって審判買収ではないかと騒ぎになったため請求書払いになったらしい。


まあ余談はさておき、再度点数を見直すのは主観の入らないDスコアだけというのはいいと思う。Eスコアだったら審査員もインクワイアリーされたからなんとなく点数を上げてしまったということもありそうな気がするが、AIを使ったDスコアなら揺らぎようがない。


2006年までは体操競技の得点はシンプルに10点満点だったというから、昔と比べると審査方法はかなり進化している。この選手は難しい技を成功させているけど姿勢や着地が乱れたから低い点数、この選手はあまり難しい技はやってないけど姿勢がきれいで着地も完璧だから高い点数、この選手は難しい技を成功させて姿勢も着地もまあまあきれいだったので超高い点数というのがわかりやすくなった。


ここまで審査の方法を見てきて、現在の審査方法に特に問題はないように思ったが、やはり人間がつける点数だからかたびたび議論されている。自国の選手に有利な審査をしているのではないかとか、審査員の買収疑惑とか。自分はこれだけインターネットで情報が出回っている時代に世界的な大会の審査で不正が行われるとは考えにくいが、人間のやることなので絶対に正しいとは言い切れないと思っている。


例えば演技の順番が後になるほど高得点が出やすいという傾向がある。たとえ素晴らしい演技であっても早々に高得点を与えてしまうと、それ以上の演技をした選手にはさらなる高得点をつけなくてはならないため、開始直後は低めの点数が出やすい。朝、昼、夕方なら夕方、数日にわたって競技が行われる場合であれば最終日の終盤が最も高い得点が出やすい。


ならすべてをAIによる自動採点にすればいいのでは?と思うが、自動採点システムを導入すると点が伸びなくなった選手もいる。AIはひねりが多かったりクセがあったりすると減点してしまうからだとか。


自分は体操やフィギュアスケートのような「芸術性」もみられるスポーツの審査をAIだけにゆだねるのはつまらないと思う。芸術というのは人間がなんとなくいいなと思う感覚だと考えているからだ。Dスコア(技の難度)はAIのほうがいいが、Eスコア(技の完成度)は人間のほうがいい気がする。


世界体操2021ではDスコアは人間+AI、Eスコアは人間によって審査されており、ほぼ自分の理想どおりだということがわかった。インクワイアリーの結果には文句のつけようがないこともわかった。これからの世界体操は審査にも注目しながら見ていきたいと思った。