頭につきつけられたものは体温計でした

昨今の社会情勢のせいか、職場から出勤したときに毎朝体温を測るようにとお達しがあった。毎朝測るといってもそれぞれの家にある体温計で測ってこいというわけではない。職場の出入口に新たな体温計が設置された。それで朝出勤したときに測れということらしい。


体温計といってもよくある脇にはさんで数分待つタイプのものではない。赤ちゃん用の先端を耳に入れるだけですぐに計れる体温計でもない。


直接人肌に触れるものを多人数で使い回すのは抵抗感があるし時間もかかる。そこで導入されたのが非接触式のハンディ型体温計だ。ボタンを押して赤い光をおでこに当てるだけですぐに体温が測れる。


仕組みとしては皮膚の表面温度を赤外線で測っているらしい。形はバーコードリーダーのような小型の銃のような。ボタンの位置が引き金の位置と同じようなところにあるので、他の人に測ってもらうときは銃を突きつけられているかのような絵面になる。赤い光は照準か。初日は反射的に両手を上げてしまっていた。ワタシアンゼンナニンゲンデスヨ。まあ2日目からは慣れたが。


ピッという音とともに数値が出るので、自分を品定めされているような気にもなる。犯罪係数358執行対象です、いや間違い35.8度、執行対象ではありません、トリガーをロックします。そんな声が頭の中で聞こえる。どちらにしろ他人に何かを突きつけられるのはいい気はしない。


数か月後にはさらに最新式のモニター付のスタンド型体温計が設置された。たぶん前のハンディ型体温計は30度とか33度とか低すぎる体温になることが多かったからだろう。モニターの枠の中に顔を入れるだけで体温が計れるので、体温計に全く触れる必要がない。ただ枠の中に顔を入れてもなかなか体温が計れないときがある。そんな時は近づいたり離れたりしてみる。最近は顔が枠いっぱいになるまで近づいてから少しずつ離れていくといううまく計るコツをつかんだ。


今までの人生ではめったに体温を測ることはなかった。だがこれから何年かは毎日体温を測ることになるだろう。せっかくなので楽しんで測っていこうと思う。