口の中でとろける肉は肉じゃない

ある日、自宅で贅沢な食事をしたいと思い立って近所の精肉店へステーキ肉を買いに行く。店員の今しかこの値段では食べられないというセールストークにつられて奮発し100グラム2千円超の牛肉を購入。


さっそく家に帰って肉をフライパンでじっくりと焼く。焦げると固くなってしまうけれどもレアは好みじゃないからいい感じのウェルダンになるように。付け合わせにニンジンのグラッセでも作ろうかと思ったが、残念ながらニンジンがなかったのでタマネギとレタスのコンソメスープを作る。白い皿に盛り付けビンに入ったパセリを振りかけて完成。


久しぶりのステーキである。右手にナイフ、左手にフォークを構えて切り分ける。まずは一口。口の中に入れたとたんに肉汁がでてくる。4、5回噛んだときにはもう口の中の肉はほとんどなくなっていた。あれ、今の肉小さかったかな。次はさっきより一回り大きめに切って食べる。やはり先ほどと同じくらい噛んだだけで肉がなくなる。さらにもう一口。今度はあまり噛まないようにしていたらどんどん肉汁が出てきてほぼ歯を使うことのないまま口の中の肉が消える。


もしかしてテレビで芸能人が口の中でとろけるーとか言ってる肉ってこういう肉のことか。テレビだから大げさに言っているだけかと思っていたがリアルガチだったのか。本当にとろける肉ってあったんだ。肉をほとんど噛む必要がないのであっという間にステーキを完食してしまう。なんだかあまりステーキを食べたという実感がわかない。噛みごたえがない肉は肉じゃない気がする。


やっぱり自分は噛みごたえのある肉が好きだ。貧乏人の舌と言われようがこれは譲れない。あるレストランではシェフのこだわりでステーキ肉にあえて高すぎる牛肉を使わないようにしているそうだ。その話を聞いたときはそれは建て前で材料費をケチるために安い牛肉を使っているのではないかと思っていた。だが今ならわかる。柔らかすぎる牛肉では食べ終わったときに満足感があまりない。


だからといって安くていつまで噛んでも筋が残っているような固い肉もよくない。牛肉は高すぎても安すぎてもいけない。自分にとってちょうどいい柔らかさのステーキ用の牛肉を探し求めていきたいと思った。