ミツバチの働き蜂が自分の命を投げ出して果敢に戦う理由を考えてみた

多くの生物は自分自身が長く生き残り、子孫を増やすために進化してきた。しかし自分自身が生き残ることよりも仲間を守ることを優先する生物がいる。それがミツバチの働き蜂だ。

 

ミツバチの社会は女王蜂と働き蜂と少数のオスによって構成されている。女王蜂はもちろんメスで、産卵を繰り返して子孫を残す。働き蜂は巣を作ったり、外敵から仲間を守ったりする。働き蜂は全てメスであるが、産卵することはなく子孫を残そうとしない。

 

これは生物が子孫を増やすために進化するという考え方に矛盾している。さらに働き蜂は戦闘状態になると、自らの命を投げ出しても果敢に戦う。働き蜂は自分が長く生き残ろうともしていないのである。

 

人間でも子孫を残そうとはせず、自らの命を犠牲にして他人のために戦う人はあまりいないだろう。働き蜂はなぜ仲間を守るためだけに生きているのだろうか。全ての働き蜂が自分の子孫も作らずに、仲間のために命を投げだすということを自らの意思で行っているとは考えにくい。働き蜂がこのような生き方をしている理由として、考えられる説は2つある。

 

1つ目は働き蜂がミツバチの社会でそういう生き方をすることを強いられているという考え方だ。働き蜂は仲間のために外敵と戦う役割を果たさないと、ミツバチの社会からはじき出されて生きていけなくなってしまうのかもしれない。人間も戦時中は政府から命令されて、自らの意思とは関係なく命を投げ出して戦うこともあった。そのようにミツバチの社会において、働き蜂は仲間のために戦うという役割を果たさなければ生きていけないから、仕方なくそういう生き方をしているという説だ。

 

2つ目はミツバチは遺伝子の入れ物であるという考え方だ。働き蜂は生き方を自分の意思で決めているのではなく、遺伝子が自らを多く残すために働き蜂の体を利用しているという説である。つまり遺伝子が働き蜂を操作して、仲間を守らせているということである。働き蜂が巣を作ったり仲間を守ったりすることで、女王蜂は子孫を残すことに集中できる。働き蜂が外敵と戦うとミツバチの子どもの生存率が上がり、遺伝子の数が増えることになる。遺伝子が自身の数を増やすために、働き蜂の生き方を決めているという説だ。

 

この2つの説は働き蜂が仲間のために戦う理由は示しているが、自分の子どもを産もうとしない理由については示していない。働き蜂が自ら産卵して子孫を残そうとしない謎に、進化論を唱えたダーウィンはなぜだかわからないと言った。だがその後、血縁度を計算することでその謎に答えた学者がいるらしい。彼がいうには、女王蜂に自分の姉妹を生ませたほうが働き蜂自身が生むよりも自分の遺伝子を多く残せるからだと。いまいちピンとこなかったので、生物の授業で聞いた遺伝子の計算をして、検証してみることにした。

 

ミツバチのオスは遺伝子をメスの半分しか持たない。そこで女王蜂の遺伝子をABCD、オスの遺伝子をEFとする。その場合生まれる遺伝子はABEF, ACEF, ADEF, BCEF, BDEF, CDEFとなる。働き蜂は女王蜂から生まれるのでこの中のABEFを働き蜂とする。すると、この働き蜂ABEFと一緒に生まれた姉妹との血縁度は3/4, 3/4, 3/4, 3/4, 1/2となる。

 

働き蜂ABEFがオスGRと交尾して産卵した場合に生まれる遺伝子はABGR, AEGR, AFGR, BEGR, BFGR, EFGRとなり血縁度は全て1/2となる。確かに女王蜂が同じオスと交尾する場合は、女王蜂に自分の姉妹を生ませたほうが自らの遺伝子を多く残せそうだ。しかし女王バチは一匹のオスとしか交尾しないわけではない。

 

女王蜂ABCDがオスGRと交尾して産卵した場合に生まれる遺伝子は、ABGR, ACGR, ADGR, BCGR, BDGR, CDGRとなり働き蜂ABEFとの血縁度は1/2, 1/4, 1/4, 1/4, 1/4, 0となる。女王蜂がさまざまなオスと交尾した場合は、自分で産卵した方が自分の遺伝子を多く残せるようだ。

 

結局、女王蜂に自分の姉妹を産ませたほうが、働き蜂が自分の子どもを産むより自身の遺伝子を多く残せるという説も正しいとはいえないようだ。自分も働き蜂の生き方がわからないといったダーウィンと同じ結論になった。