電車が事故で止まっていたから別の路線で帰った

ある日いつものように仕事を終えて駅に歩いていくと、駅の手前の踏切のところに電車が止まっていた。まわりには赤いランプを光らせた救急車とパトカー、たくさんの人が集まっており尋常ではない空気を感じとる。駅に近づいていくと、警察官が事故のためしばらく電車が動かないからバスがタクシーか別の手段で帰ってくれと。マジですか。


この電車の路線以外を使って通勤したことがなかったので、他の交通手段がぱっと思いつかなかった。Googleマップで検索すると今事故で止まっている電車のルートしか出てこない。バスはどの路線がこの周辺を走っているかわからないから時刻表も見つけられない。なんでバスのルートってこんなに検索しづらいのか。


マップで南へ徒歩10分くらいのところにバス停を発見。とりあえず歩いていってみる。バス停には誰もいない。そこに貼り付けられている時刻表を見ると、このあたりだけを走るループ線だった。これでは帰れないじゃないか。他にこの近くにバス停はない。タクシーで帰ったら今日1日働いた給料がふっとぶからそれは避けたい。


そういえばもう1つ電車の路線があったことを思い出す。まあまあの田舎なので国鉄しかない地域がほとんどなのだが、このあたりにはかろうじて2本の鉄道路線が通っている。そのもう1つの路線の最寄り駅を検索すると、事故があった駅から北へ徒歩13分のところにあった。タクシーを回避するにはこれにかけるしかない。すぐに来た道を引き返して駅へ向かう。踏切がふさがれていたので少し回り道をしなければならなかったが、早歩きをしたからか20分で目的地にたどり着いた。


時刻表を見るとこの時間の電車は1時間に一本で、次が来るまでにはまだ40分以上ある。しまった、バス停に行かずにまっすぐこちらへ向かっていれば一本前の便に間に合ったのに。はじめからこちらへ来ておけばよかった。仕方がないのでベンチに座って待っていると、同じ駅から歩いてきたのか電話で事故のことを話している人の声が聞こえる。事故で電車動かなくてさー1時間後に〇〇駅に着くから迎えにきてーあれ電車動くようになってるーどうしよう切符払い戻ししてもらおうかー。


マジですか。すぐにGoogleマップを確認すると赤字が消えて通常運行になっていた。さっきの駅で待ってたほうがよかったか。いやでも今更戻るのはめんどうくさいし時間も遅くなりそうだ。あきらめて210円支払い電車を乗り換えて家に帰った。いつもより1時間半遅い帰宅だった。


次の日の朝、新聞を見ると片隅に昨日の電車の事故について書かれていた。線路を歩いていた20〜60代の男性が電車と衝突して死亡した。電車は1時間15分経ってから通常運行に戻ったと。状況から考えておそらく自殺だろう。自分にとっては電車が事故で止まってたから別の路線で帰っただけの出来事だったが、その人にとっては人生最後の出来事だったんだな。


電車の人身事故のうち自殺は50〜63%と半数以上を占めるらしい。最も多い東京のJR中央線の自殺者は一年間に20〜30人であり、1ヶ月に2回ほどおこっている計算になる。ここまで日常的に遭遇するとまたか、もううんざりという気持ちになるのもわかる気がする。自分は今回初めて巻き込まれたわけだが、自殺した人に腹が立つこともなくなんとも虚しい気持ちになった。亡くなった人の来世での幸せとこれ以上自殺する人が出ないことを願う。