バレンタインデーをバルスしたい

バルスとは『天空の城ラピュタ』に出てくる滅びの呪文である。バレンタインデーをバルスしたいとはバレンタインデーを滅ぼしたい、具体的にいうと職場のバレンタインデーの慣習を廃止したいということだ。


学生のころバレンタインデーはかなり楽しい行事だった。友達どうしで手作りのケーキやクッキーを持ちよって交換する。ほぼ親が作ってくれたお菓子をラッピングするのも楽しかったし、友達からいろいろなお菓子をもらうのも楽しかった。


だから社会人になってバレンタインデーがこれほど憂鬱な日になるとは思わなかった。社会人のバレンタインデーとは女性社員が好きでもない男性社員に義理でチョコレートを送り、ホワイトデーに欲しくもないお返しをもらうという悪しき風習である。


なぜ悪しき風習かというと、個々の気持ちに関係なく義務的に行われるからだ。前の職場の男性社員たちは病気で休んでばかりだったり、自分の仕事が残っているのに何も言わずに定時で帰ったり、仕事ができないのに偉そうにしたりと嫌われている人ばかりだったのに、一人の女上司の声のせいで女性社員全員が割り勘してバレンタインデーにチョコレートを贈ることになった。


恋愛的に好きではなくても、普段お世話になっている人に感謝の気持ちとして贈り物をすることはよいことだと思う。だが普段から影であれだけ不平不満を言っている人たちにバレンタインデーだという理由だけで贈り物をするというのは理解できない。


もう令和の時代だし、いい加減に職場のバレンタインデーも廃れてきただろう。そう思っていたが残念ながら自分が過去にいた職場では女性100%のところ以外全て行われていた。そして今の職場も。


男女比が偏っているとあげる方ももらう方も不満が残る。前の職場では男女比が1:6だったので女性社員から集めたお金で男性社員に大きな箱に詰まったチョコレートが送られた。そしてホワイトデーには女性社員一人一人が出したのと同じ金額くらいの小さな袋に入った飴のお返しをもらった。 


あげた方が出した金額は一人あたり400〜500円だったので、計算するともらう方は一人2400〜3000円のチョコレートを受け取ることになる。そしてお返しが同じくらいの金額ということはもらった方はお返しに同じくらいの金額を支払っているということだ。つまり男性社員が少ない職場では男性側の方がバレンタインデーに多くの費用をかけている。


女性社員の少ない職場ではこの逆の現象が起こる。男女比の偏りが大きいほど、人数の少ない側がバレンタインデーにかける費用が高くなり残念な気になることが多い。じゃあ人数の多い側だったら得なのかというとそうでもない。2000円以上だとかなりおいしいチョコレートが大量に買えるが、500円以下だとラッピングがかわいいだけのちょっとしか入ってない飴やらクッキーやらになる。それらは量も少ないしおいしくもないので100円の板チョコを5枚買った方がましなのだ。


そのため職場でのバレンタインデーはもらう方もあげる方も得をしない。不満のある社員に義理で贈り物をして、望まないお返しをされると余計に関係が悪くなるくらいだ。職場ではハロウィンやらクリスマスやら他の行事は完全スルーなのにバレンタインデーだけ参加するというのもおかしい。


ここまで散々否定してきたが、別にバレンタインデー自体が嫌いなわけではない。2月という寒い時期に食べるチョコレートは格別だし、スーパーのバレンタインデーコーナーを見るとテンションが上がる。この時期しか生チョコレートがあまり売られてないこともあって、毎年自分用のチョコを買いに行くのは楽しみの一つだ。


そもそもバレンタインデーは皇帝に禁止された結婚式を若い兵士たちのために密かに行ったヴァレンティンさんが処刑された日である。そのため祝うべきではないとい意見もあるが、自分は別にそうは思わない。日本でそんなこと意識してバレンタインデーを過ごしている人はほぼいないだろうし。


ただ職場でのバレンタインデーがなくなってほしいだけだ。Google「職場 バレンタインデー」で検索すると上位に渡し方のマナーがでてきたのにはイラッとした。嫌々参加しているのになぜマナーまで気にしなくてはいけないのか。


よくバレンタインが今のようになったのはチョコレート会社の陰謀だといわれるが、チョコレート会社が宣伝したのは日頃お世話になっている人に贈り物としてチョコレートを贈ろうというだけで、女性から男性へ職場で贈ろうとは言ってない。


そもそも女性から男性へ贈るものだという空気が気持ち悪い。性別だけで役割を決めるのがおかしいし、LGBTの人はなおさら複雑な思いを持つだろう。最近では職場のバレンタインデーは環境セクハラになるとかで禁止しているところもあるそうだ。一刻も早く禁止する風潮が日本中に広まってほしい。


会社でどうしてもバレンタインデーを祝いたいのなら女性社員から男性社員へではなく、会社から福利厚生として全社員にチョコレートをプレゼントするべきだ。そうすればみんなハッピーになれる。一日も早くバレンタインデーが社会人も楽しみにできるような行事になることを願う。