薬剤師っていらなくない

子どものころの夢は薬剤師だった。親から薬剤師は給料が高くパートの時給もいいし、一度やめても再就職しやすいと聞いていたからだ。白衣を着て薬の知識を活かし人の役に立っているところがかっこよく見えたのもある。


自分が憧れたのはドラッグストアの薬剤師だった。小学生のとき、湿疹がなかなか治らずかゆみで苦しんだことがあった。そこでドラッグストアに行き薬剤師にいい薬はないか聞いてみた。すると虫刺されの薬のムヒがいいと教えてもらい、使うと3日ほどで治ってうれしかった思い出がある。だから薬剤師になれば直接関わって人を助けられるものだと思っていた。


結局、学力と学費が足りなかったため薬学部への進学はあきらめたが今はそれでよかったと思っている。なぜなら薬剤師がなんのためにいるのか疑問だからだ。病院や薬局の薬剤師が主にしていることといえば医師の処方箋に従って薬を調剤したり袋に詰めたりして患者にわたすだけ。病院薬剤師にはダブルチェックの役割もあるみたいだが、医師に意見なんてできないという薬剤師がチェックしたとしてなんの意味があるのか。


病院薬剤師のドラマの感想で薬剤師が医師に意見するなんてありえないというコメントがあったが、ただ医師に従うだけの薬剤師に存在価値はないと思う。日本の法律では医師の指示がないと薬剤師は薬を処方することはできない。だから薬剤師は処方ミスに気づいた場合、必ず医師に確認して処方箋を変更してもらう必要がある。


あの医師は薬剤師の意見を聞かないからとスルーしてしまってはダブルチェックする意味がない。確かに無駄にえらそうにして他の医療従事者の意見を聞き入れようとしない医師は存在する。医師だって人間なのでミスしないことはありえないのに。薬剤師は患者のためなら医師を殴りとばしてでも間違いを認めさせるべきだと思う。まあそれは現実的ではないのでうまくコミュニケーションをとってということになるだろうが。


ドラマでは病院内で働く薬剤師が主人公で、アナフィラキシーショックをおこした患者のもとに行き心臓マッサージをしていた。薬剤師がそんなことするなんてありえないというコメントを見たが、現実にいるかどうかはおいといて自分は薬剤師がやってもいいと思う。心臓マッサージは強く絶え間なく押し続ける必要があり、人手不足の救急で医師や看護師だけがするのは効率が悪い。


ドラマの薬剤師は直接患者のもとに行ってインスリン注射がしっかりできてるか確認もしていた。だが現実ではそんなことをする薬剤師を自分は見たことがない。入院施設のあるような大きな病院にいる薬剤師でも、調剤室にこもりきりで薬を準備するだけ。実際に入院患者が薬を飲んでいるか確認したり点滴で薬を投与したりするのはほとんど看護師がやっている。


薬局の薬剤師は医師の処方箋を見て薬を袋に詰めて、渡すときに用法と用量を読み上げるだけ。正直誰にでもできる仕事である。ミスが許されないなかがんばっているという人もいるが、そういう人ばかりでもない。婚活パーティで会った薬剤師が高齢者の薬が多すぎてよく間違えると笑いながら話してたのを聞いたときは血の気が引いた。仕事辞めたいと言ってたのでやめればいいんじゃないですかと笑顔で言ったがまだ働いてるだろうか。そんないいかげんな薬剤師に渡された薬を自分や家族が飲む可能性があると思うとぞっとする。


ドラッグストアの薬剤師は一番身近な存在であるが、薬剤師っぽくない仕事が多そうに見える。レジ打ちをしたり品出ししたり、薬剤師というよりはドラッグストアの店員の1人というイメージが強い。薬のことをよく知っており症状に合ったよいものを教えてくれる薬剤師もいるが、店のために利益率の高いものを薦めてくる薬剤師もいる。


薬剤師の仕事には、昔は人間がやるしかなかったが今なら機械やロボットやAIに任せられることがいっぱいある。処方箋の飲み合わせや禁忌のチェックなら電子カルテでできる。薬を必要なぶん計り取って混ぜるなんて機械がやったほうが正確で速い。処方箋に従って必要な薬を出し、一日に飲む薬をまとめて一包化し、画像で薬を認識してチェックするところまでロボットができる。服薬指導もマニュアルどおりならAIができるし、紙に書かれた用法用量を読み上げるだけならAIを使うまでもない。


電子辞書やインターネットが使えなかった時代ならより多くの薬の名前や効能を覚えている薬剤師が必要だったかもしれないが、現代では必要ない。それにいくら記憶力がいいといっても一人の人間がすべての薬の知識を頭に入れることはできない。製薬企業が決める商品名と薬の主成分から名づけられる一般名は全然違うし、薬の名前はカタカタの似たようなものばかりだし。


AIが発達してきてよく必要なくなる職業として医療従事者の中では薬剤師があげられるが、確かにそうだと思う。ゼロになることはなくてもIT化が進めばかなりの数の薬剤師がいらなくなる。薬剤師の数が今のままなら人間がやる仕事が減ったぶん、人間にしかできない仕事をしていくべきだ。


病院薬剤師には調剤室から出てきてもっと患者を見てほしい。薬局薬剤師は病院の周りに留まるのではなく、もっと地域に出てきてほしい。ドラッグストアの薬剤師は店の利益のためではなく、患者にとって本当にいい薬を勧めてほしい。薬剤師っていらなくない?と言われるのではなく、やっぱり薬剤師っていらなくないよねと言われるような存在になってくれることを願う。