初めてのホームステイ

大学生のときに3週間のタイスタディツアーに参加したときに初めてホームステイを経験した。ホームステイというと英語を学ぶため海外の家庭に長期間滞在するというイメージがある。ハイジョージィ、アンチュウガナセイヘロー?HAHAHAHAみたいな。


しかし自分が参加したホームステイは外国語を学ぶためのものではなかった。主な目的はそこで暮らしている人々の生活を知ること。ホームステイ期間は3日。ホームステイ先はホイプム村で、そこにはモン族という少数民族が暮らしている。


ホイプム村は山の中腹部にあり、舗装されていない山道をトラックで30分ほど進むとたどり着く。ホイプム村には小さなソーラーパネルはあるが電線はなく、安定した電気が使えないため電気製品はあまり使わない。日本の家庭にはあたりまえのようにある洗濯機も冷蔵庫もエアコンもない。夜に照明をつけたり、たまにテレビを見たりするくらい。


水道は谷水を利用している。食事の前は水で手を洗い、毎日シャワーをあびる。トイレは穴があるだけのエコトイレなのでひしゃくに水をためて流す。大の時はきれいに流すのが難しいが小の時は全く問題ない。レバーをひねって水を流すトイレより水を節約できるのがいいと思った。


家は木や枝を組み合わせて作られており4人家族でワンルーム。寝るのも食べるのも着替えるのも全部同じ部屋。壁には隙間が多々あり、床はなく足元は土なので家の中でも当然土足。トイレとシャワー室は家の外にある。家からトイレまでの道はゆるやかな下り坂になっており雨が降ったらぬかるむ。照明は1つだけで雨の夜トイレに行ったら足元がよく見えず滑って転んだ。


ベッドは木を組み合わせて床から1メートルくらいの高さに作られていた。三角形を組み合わせた鉄橋のような構造になっておりかなり丈夫。家の壁は隙間だらけで虫が入り放題なのでベッドの四隅に棒を立てて蚊帳(かや)でベッド全体を覆う。こうすることで一年中夏のような気候のタイでも蚊に悩まされることなく安心して眠れる。ベッドの上だけは靴を脱いで裸足になれるのがいい。


言語はタイ語なので村の住民が何を言っているかはさっぱり。書き文字は知恵の輪を組み合わせたような形で全くわからない。話せる言葉は「こんにちは=サワディーカ」「ありがとう=コップンカー」「美味しい=アローイ」くらい。そのため意思疎通の方法は主にジェスチャーだった。ごはんを食べるときはお椀をもってかきこむ動き、トイレに行きたいときはトイレのほうを指さし、シャワーのときは頭を洗う動き。それだけわかれば生活するのに問題はない。子どもたちと一緒に折り紙で遊んだり、図や写真でステイ先のお母さんとコミニケーションをとったりして過ごした。


ホームステイ中はごはんを作っている様子をよく横で見せてもらっていた。包丁だけで食材の皮を剥いたり種をとったり細かく切ったりして鍋に入れる。そして薪に火をつけて燃やしその上に鍋を置く。かぼちゃは茹でるだけ、魚は揚げるだけとシンプルな料理が多い。冷蔵庫はないので食べ残しは家の外に捨てる。すると家の周りにいる犬や鶏が食べにくる。犬も鶏も飼っているわけではないのに住みついており家の中に入ってくることも。鶏はたまに捕まえて食べるそうだ。


庭では野菜を作っており、食べたカボチャの種を植えていた。主な仕事は農業で山の上にはトウモロコシ畑がある。畑は広いのだが、草が枯れていて何も育てていないところがあるのが気になった。現地の人の話によると除草剤が原因だとか。モンサント社という大企業は除草剤とそれに耐性のある農作物の種をセット売りしているため、種だけ買うことはできない。仕方なくその種と除草剤を使うと除草剤の効果でモンサント社以外の種が育てられない土地になってしまったため放置しているらしい。


他に国の支援の問題もある。少数民族モン族はラオス内戦によってラオスからタイのホイプム村に移り住むようなったという事情があり、現在もタイ政府に村として認められていない。そのため彼らは国の支援を受けられないという。いろいろ問題はあるがNPO法人の助けを借りたりしながら前向きに生活していることがわかった。


今回のホームステイで電気のない暮らしを体験できてよかった。冷蔵庫や洗濯機はあると便利だが、なくても生きていける。モノがたくさんあることが幸せにつながるわけではない。自分の今の生活を見直すきっかけになった。ホームステイ先の人々には3食いろんなものを食べさせてもらったり、民族衣装を着させてもらったり、お土産をもらったり、とてもよくしてもらって感謝している。